日本公法学会初日

2013年10月15日 13:24

 10月12日の備忘録。

 

 

    『公法研究』75号を購入。

  昨年公法学会シンポジュウムの討論内容が活字になった。

(第一部会) 

 土井真一会員の報告に関して

 中野雅紀会員(茨城大学) 自己情報コントロール権説は、伝統的なプライバシー権説から空間的限定を除去し、他者とコミュニケートする人間像への転換を図ったと言われるが、そこでは「開かれた社会」やコミュニケーション理論との必然的な連関を要するように思われる。

 土井真一会員(京都大学) 転換とは言っても、元々の個人として他者から介入を受けない空間の中で自由な活動を行うという考え自体は依然として残されている。その上で、他者とコミュニケートして公共的事項を議論し、また私的な空間でもコミュニケーションするという多層的な活動領域があり、その全体を視野に収めた自己情報のコントロールが必要となると考えられる。コミュニケーション活動なりそれが行われる社会なりの正当化・支持を目指す理論とは一定の関係性があるだろう。

 中野会員 京都府学連事件以降の判例理論は基本権の保護領域を一応広く捉えながら「みだりに」という文言によってそれを狭めるという二段階の画定をしているのか。

 土井会員 最高裁の判断はいわゆる三段階審査のような段階分けをせずに渾然とした考慮をするものと見られる。そしておそらく民事的な権利の考え方にひきずられて、最後の段階で保障されているものだけを権利と呼んでしまう傾向がある。権利を認めるならば当然にその保障内容が認められると考えられているから、権利の定義自体の中に「みだりに」を含めてしまうこととなっていると分析している。(154頁)

 

 齊藤笑美子会員の報告に関して

 中野会員 石川報告でのイェリネックの公権論をどのように評価しているのか。また近代立憲主義の立場から、あるべき戸籍の姿についてはどう考えるか。

 齊藤会員 身分登録による国民の創出についてはともかく、公権としての家長権の廃止という意義については、日本では不十分なかたちをとり、例えばイエにおける父権も残存した。近代立憲主義、個人主義との関係では、「戸」による把握ではなく、個人単位の身分登録をすることが相応しい。

 中野会員 フランスの制度についてもう少し伺いたい。

 齊藤会員 身分証書は個別の事件・身分行為ごとに作成し、それを編纂する。公開制度に関しては、原則として親子関係の証明を含む出生証書の写しは本人と一定範囲の親族しか請求できない。第三者請求に際しては検事の許可が必要である。(163頁)

 

(第二部会)

 石川健治会員の報告に関して

 中野雅紀会員(茨城大学) 理論的な面から見るとイェリネックの身分論の分析・読解に関してはもっともであるが、革命の進展との齟齬は生じないか。フランス革命以降においてもstatus familiaeの廃止によって家族制度自体が実際に廃止されたわけではない。

 石川会員 フランス革命において現実に家族制度が廃止された、などという歴史的事実を語ろうとする議論では、そもそもない。ただ、政治社会の参加資格であり、一つの支配の単位でもあり、これを得ることによって初めて権利能力を十全に獲得できるという意味で、最も重要な公法上の身分だった、家長ないし家の身分から、少なくともその正統性が剥奪された。やはりこれは、近代国家の成し遂げた大きな成果だというのが、ここでの議論の立て方である。

 他に質問用紙に書かれているものについて二点ほど答えさせていただく。第一に、基本権についてはイェリネック的なスタティックな把握では対応できないのではないかという学説が有力になっているが、どう考えるのか。第二に、愛関係と連帯関係という議論とフランスの博愛fraternitéとの関係について。

 第一の点に関して、もちろん完全に対応するのは無理であろう。しかし、憲法上の法人格あるいは基本的人権というものの構えとしては、「鉄仮面」性をそう簡単に捨てるわけにはいかない。それどころか、そもそも、元々そういう構えをもっていたこと自体、あまり自覚されていないのではないか。それゆえ、まずは構えを立て直すことを優先すべきである。

 また、本来はこれはスタティックな議論ではないことに、注意すべきである。その背後には非常にダイナミックな歴史の動態に対する考察がある。そうした見えない鉱脈を掘り出したいというのが私のStatus論の一つの趣旨であった。逆に言うと、その動態性を応用すれば、Status論の組み換えによって課題に対応する余地は、将来的にもまだまだある。

 第二の点に関して、博愛fraternitéとは兄弟愛のことであるが、有力な見解はこれを連帯と読み替え、フランス革命の第三の原理として、博愛ないし兄弟愛の原理のアクチュアリティを復活させるということを、やってきた。それとの対応関係において位置付けられるのが、報告で主題化した連帯関係である。(230頁)

                                                                                   2014年3月15日追加  

 

 

   太田報告に対する質問者が豪華すぎる。

   初宿正典先生

   長谷部恭男先生、

   高田篤先生

   石川健治先生