箴言(2)―「プリンセスチュチュ 卵の章 」岸田今日子OPナレーション

2013年01月18日 15:26

「プリンセスチュチュ~卵の章~」

 

 

Akt.1「あひると王子様」~Der Nusknacker: Blumenwalzer~

 

 むかし、一人の男が死にました。                                       

 男の仕事はお話を作って語ることでしたが、死には逆らえません。                  

 男の最後のお話は、美しく勇敢な王子が、悪賢い大烏を退治するお話でした。けれども、もう永遠に戦いの決着はつきません。
 「こんなのは嫌だ!」
 大烏が叫びました。
 「こんなのは嫌だ!」
 勇敢な王子も叫びました。
 大烏はお話の中から逃げ出し、王子もそれを追いかけました。
 そして王子は、自分の心臓を取り出し、禁断の力を使って大烏を封じたのでした。――その時、
 「これはいい……」
 死んだはずの男が、どこかからつぶやきました――

 

Akt.2 「心のかけら」~Schwanensee: Scene finale~

 

  むかし、一人の男が死にました。
 男が語っていたお話は、美しく勇敢な王子が悪賢い大烏を退治するお話。
 男が死ぬと、大烏と王子はお話から飛び出しました。
 王子は大烏を封じるため、自分の心臓を取り出しましたが、それは王子だけに与えられた禁断の力。
 みごと大烏は封じられましたが、王子の心臓はかけらとなって飛び散って、町のあちらこちらに散らばってしまいました。
 それからというものその町は、お話と本当が混ざり合い、不思議が不思議でない世界になってしまったのでした。

 

 

Akt.3 「プリンセスの誓い」~Dornroschen: Panorama~

 

 むかし、一人の男が死にました。
 お話は途切れて、王子は心臓と一緒に、人々に向ける優しい気持ちも、勇敢に戦った思い出もなくしてしまいました。
 そして、町中に散らばった王子の心臓のかけらが、行き場を求めて、隙間の開いた心に住み着きました。
 かけらにとりつかれた人々の中には、自分自身の物語を狂わせてしまう者もありました。

 

Akt.4「ジゼル」~Giselle~

 

 むかし、決してかなわぬ恋がありました。
 でも、それだけで物語は生まれません。
 恋の物語を紡ぐべき男は、もう世界にはいなくなってしましました。
 恋はいつまでも悲しいままで、物語は生きています。
 紡ぎ手のいなくなった物語は、その結末を求めてさまよっています。

 

Akt.5「火祭りの夜に」~Bilder einer Ausstellung: Die Katakomben~

 

 むかし、あるところに幸せな王子がおりました。
 辛い過去も知らない、辛い未来も知らない、幸せな王子。
 あるとき王子は温かいぬくもりを手に入れました。
 けれどもぬくもりが照らし出したのは、
安らぎだけではなくて、不幸も辛さも寂しさもでした。

 

AKT.6 「夢見るオーロラ」~Dornröschen: Prolog~ 

 

 むかし、魔女の呪いで永遠の眠りにおちたお姫様を目覚めさせようと、一人の若者が現れました。
 ところが誰かがささやきます。
 「姫を眠りから覚ますなど、なんて残酷なことをするのだろう」。
 姫が望んでいるのは「目覚めの口づけ」ではなく、このまま永遠に眠り続けることなのでしょうか。

 

AKT .7「からす姫」~An der schönen blauen Donau~

 

 むかし、一人の子供がおりました。
 子供にとって世の中は不思議なことばかり。
 「どうして」「なぜ」「どうやって」。
 1つの謎が解ければ、2つの謎が生まれます。
 2つの謎が解ければ、4つの謎が生まれます。
 4つの謎が解ければ、数え切れない謎が・・。
 いつしか子供は、謎に飲み込まれてしまいました。

 

AKT.8「戦士の泉」~Fantasie-Ouverture zu "Romeo und Julia"~

 

 むかし、一人の戦士がおりました。
 戦士は親友を守るために、その親友の命を奪ってしまいました。

 むかし、一本の剣がありました。
 平和のために戦い続けたその剣は、平和を守るためには自分を使うものを殺すしかないと気づき、主人の命を奪ってしまいました。
 そうするしかなかった戦士と剣は、本当にそうすべきだったのか。
 未だにわからないまま、さまよっているのです。

 

AKT.9 「黒い靴」~Bilder einer Ausstellung: Alten Schloß~

 

 むかし、たいそう踊りの好きな女の子がおりました。
 女の子は一度はいたら永遠に踊り続けなくてはならないという、「赤い靴」をはいてしましました。
 女の子は夜も昼もずっと踊り続けて・・おっと。
 これは違うお話でした。
 でも、全く違うわけではないのかもしれません。

 

AKT.10 「シンデレラ」~Aschenbrodel: Walzer-Coda~

 

 むかし、一人の娘がおりました。
 娘はみすぼらしい服を着て、灰かぶり姫と呼ばれていましたが、魔法で美しいお姫様になり、王子と踊ります。
 そして十二時の鐘とともに、娘はガラスの靴を残して元の灰かぶり姫に戻りました。
 王子はわざわざ娘を捜し出し、妻にめとりましたが。

 でも、王子はその娘を本当に愛したのでしょうか。

 

AKT.11 「ラ・シルフィード」~La Sylphide~

 

 むかし、自由の翼をもつ娘がおりました。
 娘を愛する男は思いました。

 「あの翼を縛ってしまえたら。そうすれば片時も離れずにすむのに」と。
 けれども男が娘の翼を「魔法のショール」でくるむと、たちまち翼は落ち、娘は死んでしまいました。
 男は知らなかったのです。

 娘の翼は命の源だったことを。

 

AKT.12「闇の宴」~Scheherazade~

 

 むかし、美しい一人の奴隷がおりました。
 彼を縛るのは、重い鎖ではなく、お姫様の愛情でした。
 夜ごと夜ごと、お姫様は奴隷に愛をささやき、奴隷はそれに応えます。
 縛られた体、縛られた気持ち。
 動けないでいるのは奴隷とお姫様、本当はどちらなのでしょう。

 

AKT.13 「白鳥の湖」~Schwanensee~

 

 むかし、美しい白鳥に恋をした王子がおりました。
 ところが、王子は黒鳥の卑怯な罠に落ち、愛する白鳥を裏切ってしまいました。
 黒鳥に愛を誓ってしまった王子……。
 それでも、白鳥はわが身を捨てて愛する王子を守ろうとします。
 今こそ、その愛の深さが試されるのです。

 

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