箴言(2)―「プリンセスチュチュ 卵の章 」岸田今日子OPナレーション
「プリンセスチュチュ~卵の章~」
Akt.1「あひると王子様」~Der Nusknacker: Blumenwalzer~
むかし、一人の男が死にました。
男の仕事はお話を作って語ることでしたが、死には逆らえません。
男の最後のお話は、美しく勇敢な王子が、悪賢い大烏を退治するお話でした。けれども、もう永遠に戦いの決着はつきません。
「こんなのは嫌だ!」
大烏が叫びました。
「こんなのは嫌だ!」
勇敢な王子も叫びました。
大烏はお話の中から逃げ出し、王子もそれを追いかけました。
そして王子は、自分の心臓を取り出し、禁断の力を使って大烏を封じたのでした。――その時、
「これはいい……」
死んだはずの男が、どこかからつぶやきました――
Akt.2 「心のかけら」~Schwanensee: Scene finale~
むかし、一人の男が死にました。
男が語っていたお話は、美しく勇敢な王子が悪賢い大烏を退治するお話。
男が死ぬと、大烏と王子はお話から飛び出しました。
王子は大烏を封じるため、自分の心臓を取り出しましたが、それは王子だけに与えられた禁断の力。
みごと大烏は封じられましたが、王子の心臓はかけらとなって飛び散って、町のあちらこちらに散らばってしまいました。
それからというものその町は、お話と本当が混ざり合い、不思議が不思議でない世界になってしまったのでした。
Akt.3 「プリンセスの誓い」~Dornroschen: Panorama~
むかし、一人の男が死にました。
お話は途切れて、王子は心臓と一緒に、人々に向ける優しい気持ちも、勇敢に戦った思い出もなくしてしまいました。
そして、町中に散らばった王子の心臓のかけらが、行き場を求めて、隙間の開いた心に住み着きました。
かけらにとりつかれた人々の中には、自分自身の物語を狂わせてしまう者もありました。
Akt.4「ジゼル」~Giselle~
むかし、決してかなわぬ恋がありました。
でも、それだけで物語は生まれません。
恋の物語を紡ぐべき男は、もう世界にはいなくなってしましました。
恋はいつまでも悲しいままで、物語は生きています。
紡ぎ手のいなくなった物語は、その結末を求めてさまよっています。
Akt.5「火祭りの夜に」~Bilder einer Ausstellung: Die Katakomben~
むかし、あるところに幸せな王子がおりました。
辛い過去も知らない、辛い未来も知らない、幸せな王子。
あるとき王子は温かいぬくもりを手に入れました。
けれどもぬくもりが照らし出したのは、安らぎだけではなくて、不幸も辛さも寂しさもでした。
AKT.6 「夢見るオーロラ」~Dornröschen: Prolog~
むかし、魔女の呪いで永遠の眠りにおちたお姫様を目覚めさせようと、一人の若者が現れました。
ところが誰かがささやきます。
「姫を眠りから覚ますなど、なんて残酷なことをするのだろう」。
姫が望んでいるのは「目覚めの口づけ」ではなく、このまま永遠に眠り続けることなのでしょうか。
AKT .7「からす姫」~An der schönen blauen Donau~
むかし、一人の子供がおりました。
子供にとって世の中は不思議なことばかり。
「どうして」「なぜ」「どうやって」。
1つの謎が解ければ、2つの謎が生まれます。
2つの謎が解ければ、4つの謎が生まれます。
4つの謎が解ければ、数え切れない謎が・・。
いつしか子供は、謎に飲み込まれてしまいました。
AKT.8「戦士の泉」~Fantasie-Ouverture zu "Romeo und Julia"~
むかし、一人の戦士がおりました。
戦士は親友を守るために、その親友の命を奪ってしまいました。
むかし、一本の剣がありました。
平和のために戦い続けたその剣は、平和を守るためには自分を使うものを殺すしかないと気づき、主人の命を奪ってしまいました。
そうするしかなかった戦士と剣は、本当にそうすべきだったのか。
未だにわからないまま、さまよっているのです。
AKT.9 「黒い靴」~Bilder einer Ausstellung: Alten Schloß~
むかし、たいそう踊りの好きな女の子がおりました。
女の子は一度はいたら永遠に踊り続けなくてはならないという、「赤い靴」をはいてしましました。
女の子は夜も昼もずっと踊り続けて・・おっと。
これは違うお話でした。
でも、全く違うわけではないのかもしれません。
AKT.10 「シンデレラ」~Aschenbrodel: Walzer-Coda~
むかし、一人の娘がおりました。
娘はみすぼらしい服を着て、灰かぶり姫と呼ばれていましたが、魔法で美しいお姫様になり、王子と踊ります。
そして十二時の鐘とともに、娘はガラスの靴を残して元の灰かぶり姫に戻りました。
王子はわざわざ娘を捜し出し、妻にめとりましたが。
でも、王子はその娘を本当に愛したのでしょうか。
AKT.11 「ラ・シルフィード」~La Sylphide~
むかし、自由の翼をもつ娘がおりました。
娘を愛する男は思いました。
「あの翼を縛ってしまえたら。そうすれば片時も離れずにすむのに」と。
けれども男が娘の翼を「魔法のショール」でくるむと、たちまち翼は落ち、娘は死んでしまいました。
男は知らなかったのです。
娘の翼は命の源だったことを。
AKT.12「闇の宴」~Scheherazade~
むかし、美しい一人の奴隷がおりました。
彼を縛るのは、重い鎖ではなく、お姫様の愛情でした。
夜ごと夜ごと、お姫様は奴隷に愛をささやき、奴隷はそれに応えます。
縛られた体、縛られた気持ち。
動けないでいるのは奴隷とお姫様、本当はどちらなのでしょう。
AKT.13 「白鳥の湖」~Schwanensee~
むかし、美しい白鳥に恋をした王子がおりました。
ところが、王子は黒鳥の卑怯な罠に落ち、愛する白鳥を裏切ってしまいました。
黒鳥に愛を誓ってしまった王子……。
それでも、白鳥はわが身を捨てて愛する王子を守ろうとします。
今こそ、その愛の深さが試されるのです。
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